チョコレートには、甘さが必要です。
カカオだけでは、苦い。甘みが加わることで、チョコレートはチョコレートになる。では、何で甘くするか——その選択が、ローチョコレートという食べ物の性格を大きく決めています。
一般的なチョコレートの多くは、精製された白砂糖を使います。甘さが均一で、扱いやすく、安定している。でも、ローチョコレートの世界では、白砂糖を使わないことがひとつの前提になっています。
なぜか。
この記事では、「甘味料の違い」を成分や数字で語る前に、まず「なぜ精製糖を避けるのか」という問いから始めたいと思います。それは、ローチョコレートという作り方の根っこにある考え方と、深いところでつながっているからです。
精製糖とは何か——「甘さだけを取り出す」ということ
白砂糖は、さとうきびやてんさい(甜菜)から作られます。これらはもともと植物であり、甘みとともにミネラルなどの成分も含んでいます。
精製とは、そこから甘み(主にショ糖)を高純度に取り出す工程です。不純物を取り除き、色を白くし、結晶を均一にする。結果として得られるのは、純度の高いショ糖——甘さとしては非常に扱いやすく、安定した素材です。
その一方で、もとの植物が持っていた風味や成分は、精製を重ねるほど取り除かれていきます。
ローフードの考え方から見ると、これは「素材の“そのまま”から遠ざかる」工程とも言えます。
だから「精製糖を使わない」という選択は、単に何かを避けるためだけではありません。
素材が持っているものを、できるだけそのまま届けたい——そういう積極的な姿勢から来ています。
ショコラティエからのひとこと
精製とは、植物が持つ豊かさの多くを取り除き、
「甘さ」という一側面だけを純化する工程です。
ローフードが精製糖を避けるのは、その“失われていくもの”にも目を向けたいからだと思います。ローチョコレート全体の「普通のチョコとの違い」は、こちらで整理しています。
ローチョコレートと普通のチョコレートの違い|何が”ロー”なのか
精製糖を使わない——3つの層で考える
ローチョコレートが精製糖を避ける理由は、ひとつではありません。
体感の違い、素材の哲学、味と素材との相性——この3つの層が重なっています。
第一の層:体感の違い(甘さの立ち方と余韻)
精製糖(白砂糖)については、「甘さが立ちやすい」「食後に波を感じることがある」といった話がよく語られます。人によっては、食後に眠くなったり、早めに空腹感が戻ったり、気分が揺れるように感じたりすることもあるかもしれません。
ローチョコレートで使われることが多いのは、ココナッツシュガーや甜菜糖など、(一般に)GIが相対的に低いとされる甘味料です。もちろん、カロリーが劇的に変わるわけではありません。ただ、甘さの立ち方や余韻の出方が違う、と感じる方がいるのも事実です。
「食べた後に重くない」「一粒でなんとなく満足できる」という声が出るのは、カカオそのものの豊かさに加えて、甘味料の選び方も要因のひとつになっているのかもしれません。
※ここでお伝えしたいのは医学的な主張ではありません。GIは目安であり、感じ方には個人差があります。
数字の正解を探すより、「自分の体がどう感じるか」を確かめながら選んでほしい——その一点です。
カロリーや栄養成分の「数字との距離感」については、こちらでも整理しています。
ローチョコレートのカロリーと栄養成分|気になる数字の正直な話
第二の層:加工度の低さという哲学
ローフードの核心にある考え方は、「素材をできるだけそのままの状態で扱う」ということです。加熱を避けるのも、精製を避けるのも、同じひとつの姿勢から来ています。
ローチョコレートで使われる甘味料——ココナッツシュガー、(精製度に幅のある)甜菜糖、ルクマパウダー、ローハニー——は、植物や花の恵みを“甘さだけ”にせず、素材として扱おうとするものです。甘みの質感や風味が残っていて、ただの糖分とは違う表情を持っています。
「甘み」を届けながら、「素材の豊かさ」も一緒に届ける。これは、カカオについて言っていることと同じです。ローチョコレートは、甘味料においても、同じ哲学で選ばれているのだと思います。
第三の層:味と素材との相性
ショコラティエとして、甘味料の違いは風味に直接影響します。白砂糖の甘さは均一でクセが少ないぶん、チョコレートに「甘さ」を安定して加えることができます。これは良し悪しではなく、設計の方向性の違いです。
一方、ローチョコレートで使う甘味料は、それぞれに個性があります。甘さの立ち方、余韻、香りの方向性。甘味料が変わると、同じカカオでも表情が変わります。
ここでは、それぞれの傾向を簡単に整理します。
当店が使う甘味料の個性——それぞれの「声」を聞く
同じローチョコレートでも、どの甘味料を使うかで、味わいの印象は大きく変わります。
ココナッツシュガー——キャラメルのような奥行き
ココナッツシュガーは、ヤシの花の蜜を煮詰めて乾燥させた甘味料で、ミネラルを含む素材としても知られています。甘さにキャラメルのような自然なコクがあり、カカオの風味と深く溶け合います。
GIについては白砂糖より低いと紹介されることもありますが、数値は資料や条件で差があるため、ここでは「甘さの立ち方や余韻が違うと感じる人もいる」程度に捉えるのが安全だと思います。
当店のミルクチョコレートにも使っており、カカオとナッツの風味を引き立てる役割を担っています。「しっかり甘いのに、余韻が重すぎない」——そんな方向が好きな方に向く甘味料です。
甜菜糖(てんさい糖)——さらりとやさしい甘さ
甜菜糖(てんさい糖)は、てんさい(砂糖大根)を原料にした砂糖です。製品によって精製度には幅があり、白く仕上げたものもあれば、風味を残したタイプもあります。
味わいとしては、甘さがさらりとしてクセが少なく、素材の味を邪魔しにくい——そう感じる方が多い甘味料です。
また、てんさい由来の成分(オリゴ糖など)に触れられることもありますが、含有は商品によって異なるため、ここでは「素材としての印象」を主に見ておくのがよいと思います。
風味の主張が穏やかなぶん、フレーバーチョコレート(フランボワーズやアーモンドなど)のように、素材の個性を前面に出したい商品に向いています。
ルクマパウダー——甘みと素材感を一緒に届ける
ルクマはペルー原産の果実で、乾燥させたパウダーには、甘みのある風味に加えて、βカロテンやミネラル類などの成分が含まれることもあります。
ルクマは単体で「砂糖の代わり」にするというより、他の甘味料と組み合わせて使われることが多く、風味にほんのりとした甘みと果実のような余韻を加えます。
「甘味料でありながら、素材でもある」——ローチョコレートらしい選択肢のひとつだと思います。
和三盆——日本の繊細な甘みをローチョコレートに
和三盆は、日本の伝統的な砂糖で、讃岐や阿波(現在の香川・徳島)で作られる国産の高級糖として知られています。白砂糖とは違う独自の製法で作られ、きめが細かく、口の中でふわりと溶けるような甘さと、上品な風味が特徴です。
当店では抹茶チョコレートに使用しています。抹茶の青みと渋み、カカオの深み——この2つをつなぐ甘さとして、和三盆のやさしく繊細な甘みがよく合うと感じています。
「日本らしい素材で、日本らしい味わいを」という選択でもあります。
もちろん、和三盆は“精製糖とは違う”一方で、ココナッツシュガーやローハニーのような甘味料と同じ軸で語れない面もあります。だから当店にとって和三盆は、「精製糖を避ける」という話とは別に、相性のために選ぶ甘さです。
何より、「この味わいを作るなら、これがいちばん自然だった」——その感覚が理由です。
ローハニー(生はちみつ)——花の記憶を持つ甘さ
ローハニーは、加熱処理を前提にしない生はちみつとして紹介されることが多い甘味料です。花の蜜由来の独特の香りと、ふくよかな甘みがあり、チョコレートに「風味の層」を加えてくれます。
当店ではホワイトチョコレートやスパイスハニーチョコレートに使用しています。
なお、当店の基本は動物性原料不使用の設計ですが、はちみつを使用している商品も一部にあります。はちみつをヴィーガンとして扱うかどうかは立場が分かれるため、避けたい方は原材料表示をご確認ください。
ショコラティエからのひとこと
甘味料を選ぶとき、私が最初に考えるのは「この甘さは、カカオの声を活かすか、消すか」です。
白砂糖の甘さは均一で安定していますが、それだけです。
ローチョコレートで使う甘味料は、それぞれに「声」を持っています。
カカオと甘味料が重なって生まれる味——それが当店のチョコレートの個性になっています。
甘味料の「読み方」と「選び方」は別の話
原材料表示の読み方(どの表記がどの甘味料を指すか、全体の見方など)については、別の記事で詳しくまとめています。
この記事でお伝えしたかったのは、「なぜその甘味料を使うのか」という問いへの答えです。成分の数字より先に、その選択の背景にある考え方——加工度の低さ、素材の“そのまま”への敬意、カカオとの相性——を知っていただければ、原材料表示を見るときの目線も変わってくるかもしれません。
「ローチョコレートを選ぶ理由」が、「甘くするための手段」という一点にも、実はお店の哲学として宿っている。そのことを感じていただければ十分です。
ローチョコレート全体の選び方は、こちらでまとめています。
ローチョコレートおすすめの選び方|ショコラティエが丁寧にお伝えします
ローチョコレートの原材料表示の見方|甘味料・油脂・添加物をやさしく解説
ローチョコレートのカロリーと栄養成分|気になる数字の正直な話
最後に
甘さとは、何かを加えることではなく、何かを引き出すことだと思っています。
カカオが持っている複雑さ、香り、深み——それを消さずに引き立てる甘さ。精製されていない甘味料は、そのための“引き立て役”として働きます。主役ではない。でも、欠かせない存在です。
チョコレートの甘さを口にしたとき、その甘さがどこから来たのかを、少しだけ思ってみてください。ヤシの花か、北海道のてんさいか、ペルーの果実か、花畑の蜜か。
甘さの背景を知ると、一粒がまた少し、豊かになります。